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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)1012号 判決

控訴人(原告) 浅野万次郎

被控訴人(被告) 東京都中野区長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和二十五年五月三十一日附をもつて控訴人に対してなした傭員解職処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、原判決事実摘示記載と同一であるから、こゝにこれを引用する。(証拠省略)

理由

控訴人が昭和二十二年一月東京都作業員を命ぜられ、東京都中野区立本郷小学校に給食作業員として勤務してきたこと、控訴人が昭和二十五年五月三十一日附で被控訴人から東京都傭員規程第十四条第一項第九号に基き、「傭員たるに適せず」として解職処分に付せられたこと、並びに被控訴人が「傭員たるに適せず」と判断した具体的理由は、「控訴人は衛生観念に欠除し、給食作業員として不適当であるのみならず、学校経営に協力せず、児童の教育上支障がある。」というにあつたことは、当事者間に争のないところである。

しかして、控訴人は、まず、右解職処分の具体的理由はすべて事実と相違するから、右解職処分は違法であると主張するので、解職処分の理由として、被控訴人があげる事実の存否につき検討する。被控訴人は、控訴人が衛生観念に欠除すると主張し、その実例として、控訴人は給食作業用のボールで下帯を洗つたり、野菜洗滌用の樽で湯浴をしたことをあげているが、控訴人が給食作業用のボールで下帯を洗つた事実については、この点に関する乙第七号証の四の記載内容は信用できず、他にこれを認めるに足る証拠がない。また湯浴の点については、当審証人峯尾照子の証言により、控訴人がしばしば本郷小学校の調理場でミルクの空樽に温湯を入れて自らも湯浴し、その子にも湯浴させたことを認めることはできるけれども、右事実のみによつて、控訴人が給食作業員たるに適しない程度に衛生観念に欠除していると断定しがたく、本件一切の証拠を見ても他には控訴人の衛生観念の欠除を認定する根拠となる具体的事実を認め難い。次に、被控訴人は、控訴人は「学校経営に協力せず、児童教育上支障がある」と主張し、その根拠として、控訴人が、(一)昭和二十五年四月十日から同月十五日まで、同じく本郷小学校の給食作業員であつた妻あさと共に欠勤したこと、(二)同年四月から五月にかけて事実を歪曲したビラを父兄に配布したこと、(三)昭和二十五年に入つてから服務規律を公然と無視し、これを注意すると、かえつて校長はじめ教職員にその人格を無視するような罵辞暴言を弄したことをあげている。よつて証拠を検討するに(一)、原審証人三淵軍治並びに保坂昇市の証言によれば、控訴人は、同じく給食作業員であつた妻あさと共に、昭和二十五年四月十日から同月十四日まで欠勤し、(欠勤の事実は当事者間争がない。)、その間学校側では、職員が補助員三名を使い臨時に給食作業にあたり漸く急場をしのいだのであつたが、控訴人は、右欠勤中学校に来て、職員に、給食がどんなに骨が折れるか知らせるために休んだと告げまた後日東京都職員組合から調査をうけた際にもこれを自認していたことを認めることができる。控訴人は、右欠勤については本郷小学校長三淵軍治の許可を得たと主張し、前掲証人三淵軍治の証言によれば、控訴人はその際三淵校長に墓参すると言つて了解を求めたことは認められるけれども、控訴人の欠勤がその自認するが如き意図を蔵していたとすれば、他に欠勤の事由があつたとしても全然正当なものと認めることができず、事軽微ではあるが、控訴人が学校経営に協力しなかつた一事例ということができよう。次に、(二)成立に争のない甲第一号証の一、二、二の一、三、四、原審並びに当審証人三淵軍治の証言を綜合すれば、控訴人は、昭和二十五年四月十八日の本郷小学校PTA総会の日に参会者に「父兄の皆様に訴える」と題し、「私は本郷小学校に勤めていますが、三淵校長のやり方が余りにひどいのでぜひ父兄の皆様に聞いていただきたい」という書き出しで、PTAからの手当が作業員と用務員とで差別があつたこと、区から支給されるプール手当が作業員、用務員にまだ渡されていないこと学校当局が学童に対する配給真綿チヨツキを学童に配給せずに他に売却したことを理由に、三淵校長は民主主義教育をする資格がない旨を記載した謄写版刷りのびらを配布し、その後右小学校職員の要求で、真綿チヨツキ売上金の使途に関する訂正のびらを作成配布したが、更に同年五月「再び父兄の皆様へ」と題し右小学校職員一同が同年五月一日作成配布した控訴人の配布した最初のびらの内容に対する釈明を「非良心的」と攻撃した第二のびらを作成して右小学校児童父兄に配布したことを認めることができる。控訴人の作成したびらの要点は、自己に対する不公正な待遇を訴えるにあるもののようであるが、右のようなびらを児童の父兄に配布することは、控訴人に対する待遇の是正を求める方法としては、はなはだしく不穏当であり、傭員がその監督者である学校長を右のようなびら配布の方法で攻撃することは、学校事務の運営及び児童の教育上重大な支障を来すものと認められる。控訴人は、右は三淵校長の非違をうれうるのあまり、卒直に忠告を行つたにすぎないと主張するが、それには他に適当な手段方法あるべく、たとえその意図に出たとしても控訴人のとつた方法は、既に正当の埒外に出たものというのほかない。(三)当審証人峯尾照子の証言によれば、控訴人はしばしば前記小学校教員室で、児童がいるのもかまわず、教員をどなりつけることがあり、また児童に対しては、「校長の言うことは嘘だ、俺の言うことが正しい」と言つたりすることがあつたことを認められ、また当審証人三淵軍治の証言によれば、控訴人は、昭和二十五年三月から前記小学校に給食補助員として派遣された中田翠外二名に対しきびしい態度でのぞみ、かつ「先生の言うことはきかなくてもよい、私の言うことをきけ」などと言つたり、また公私を混同した使い方をするため、右三名の給食補助員が辞職を申し出たことを認めることができる。これら控訴人の言動は、教育関係従業員として不適当なものであつて、児童教育上もこれを放置できないものというのほかない。控訴人の提出援用にかかる証拠中、右(一)(二)(三)の認定に反する部分は当裁判所これを採用せず、他に右認定を覆えすに足る証拠がない。もつとも当審証人芳賀左一、関本健男、永島敬義の各証言によれば、控訴人は学童給食事務の遂行に異常なる熱意をもつてあたつていたことを認めることができるけれども、学童給食は小学校教育の一部分であり、控訴人が給食事務に熱心であつたからと言つて、右(一)ないし(三)に認定したように他の学校教育の場面に支障を生ぜしめるに至つては、控訴人は「学校経営に協力せず、児童教育に支障を生ぜしめたもの」といわれても仕方ないのであつて、まさに東京都傭員規定第十四条第一項第九号にいわゆる傭員たるに適しない場合に該当するものというのほかなく、従つて被控訴人が右認定の下に控訴人を解職処分に附したことは、相当であつて、この点につき何らの違法はない。

次に控訴人は、被控訴人のなした解職処分は労働基準法第二十条の規定に違反すると主張しているけれども、三十日前に解雇予告をしない場合でも、解雇にあたつて三十日分以上の平均賃金を支払うときは即時解雇をすることが許されることは、同法条の解釈上疑をいれる余地なく、かつ原審証人三淵軍治、保坂昇市の各証言並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、被控訴人は、控訴人を解職処分に附するに当つて三十日分以上の平均賃金にあたる金九千六百二十円を控訴人に提供したが、控訴人がこれを受け取らないので当時これを供託した事実を認めることができるから、控訴人の右主張もまた理由がない。

よつて被控訴人のなした解職処分には何ら違法の点は認められないから、右処分の違法なことを前提とする控訴人の本件請求は排斥を免れない。それ故これと同趣旨の原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大江保直 梅原松次郎 猪俣幸一)

〔参考資料〕

傭員解職処分取消請求事件(東京地方昭和二五年(ワ)第三五四二号昭和二六年四月二八日判決)

原告 浅野万次郎

被告 東京都中野区長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十五年五月三十一日付をもつて原告に対してなした傭員解職処分は取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めその請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告は昭和二十二年一月以来東京都中野区立中野本郷小学校に給食作業員として勤務してきたところ、被告は昭和二十五年五月三十一日付をもつて原告を解職処分にした。原告は同日中野区役所給食係保坂某等から辞職勧告を受けたが応じなかつたところ、翌六月一日右保坂から前日付で解職する旨口頭通告を受けたものである。そして右処分は東京都傭員規程第十四条第一項第九号に基くものであり、同規定は「(その他)傭員たるに適せずと認めたるときは――解傭す。」との定であることを知つた。なお原告は中野区役所教育係長に就いて更にその具体的理由を訊した結果「原告は衛生観念に欠除し給食作業員として不適当であるのみならず、学校経営に協力せず児童の教育上支障がある。」とのことであつた。

二、しかしながら、右解職の理由はすべて事実に相違する。

(一) まず、「衛生観念に欠除し給食作業員として不適当である」というが、原告は前記小学校に給食作業員として勤務中、作業上衛生の点については特に留意し、いまだ他より非難を受けたことはない。むしろ、他校から見学があつた際など給食作業場の清潔なことを賞讚された程である。又原告に衛生観念がないというのであれば、監督者である学校長等からまずその点について注意をし、改善を促すなどの処置があるべき筈であるが、かような注意等は一回とてもなかつたのである。しかるに今回唐突に右の点をもつて解職の理由とされることは甚だ心外である。

(二) 次に「学校経営に協力せず児童教育上支障がある」というが、さような事実はない。原告は時に現校長三淵軍治の行為について一、二非難した事実はあるが、それは原告が児童の父兄としていわゆるPTAの会員でもあるので、その立場から児童教育の現状を憂うるのあまり卒直に忠告を行つたものにすぎず、これをもつて学校経営に非協力であつたなどといわれる筋のものではない。

三、以上のように原告は被告のあげた解職の理由に当らないものであり、前記規定に基づくものとしてなされた本件解職処分は違法である。

しかも、原告は従来給食作業員としての給料収入により一家の生活を維持してきたものであるが、今日何らの予告もなく突然解職されたものであるから、右処分は労働基準法第二十条の規定に違反し、この点においても違法である。もつとも被告は本件解職処分を行うに当り原告に対する予告手当金九千六百二十円を供託しているが、かように予告手当を支払つても、右解職が予告を欠いたことの瑕疵を償うことができるものではない。けだし、本件のような場合、予告手当の支仏をもつて予告に代えるには、被告が充分原告の反省を求め、なお原告がこれに応じないことを当然の前提とすべきであるのに何らそのことがないからである。

かような次第で被告が原告を解職した処分はいずれにしても違法であるから、原告は本訴によつて処分庁たる被告を相手として右処分の取消を求める。

四、被告主張の事実については次のように述べた。

原告が被告主張の期間欠勤し又その主張のようにビラを配付したことは認める。しかしその余の事実はすべて争う。右欠勤は墓参その他の用件によるもので、これについては学校長等の許可を受けており、しかも右期間中といえども毎朝給食指導のため出校し作業に支障のないよう配意した。又、右ビラはあらかじめその記載と同一事項について学校長に忠告し聞き入れられなければ公表する旨予告しおき、結局公表するのやむなきに至つたものであり、原告としては父兄の協力を得て学校長及びP・T・Aの会長の反省を求めようとしたもので、他意はないと述べた。(立証省略)

被告指定代理人は主文と同趣旨の判決を求め、次のとおり陳述した。

一、原告主張の事実中同人がその主張のように東京都中野区立中野本郷小学校に勤務してきたこと、被告が原告主張の日付をもつて同人を東京都傭員規程第十四条第一項第九号に基づき解職処分にしたこと、初め中野区役所員保坂等が原告に辞職を勧告したが応じないため、程なく同人に右処分の通告を行つたこと(もつともその通告は、辞令を原告に手交しようとしたが受領しないため、内容証明郵便でこれを原告の自宅に送付し、なしたものである。)解職の理由が原告主張のとおりであることなお、右解職をなすに当り前もつて原告にその予告をしなかつたこと及び被告が原告に対しその主張の予告手当金を供託したことは、いずれも認める。しかし、その余の事実は争う。

二、原告は昭和二十二年一月末頃当時の右小学校P・T・Aの会長飯尾某の紹介で採用されたものであるが就職後数ケ月を経過した頃から(すなわち前任校長から現在の三淵校長に至る間)原告の行動はしばしばP・T・A並びに学校側から問題にされ、学校長が校内問題として穩便にこれを処理してきたが、原告は昭和二十五年に入つて以来服務規律を公然と無視し、これを注意すると、かえつて校長始め教職員に対しその人格を無視するような罵辞暴言を弄し、人身攻撃をする等、教育関係従業員として不適当な言動が多く、児童教育上これを放置できない事情にあつた。しかも原告は学校の経営方針に協力しないのみか、給食作業員としての衛生観念もほとんど皆無であつた。

なかんずく、(一)原告は昭和二十五年四月十日から同月十五日まで、その妻あさ(原告と同じく中野本郷小学校の給食作業員であつた。)とともに欠勤し、故意にその職場を放棄して学校の給食作業に支障を与え、(二)給食作業員として普通以上に清潔を旨としなければならないのに、給食作業用のボールで下帯を洗つたり、野菜洗滌用の樽で湯浴をしたことさえあり、(三)同年四月から五月にかけて甲第一号証の一、二、四のごとき事実を歪曲したビラを父兄に配付して学校の経営方針に協力しなかつたものである。

かような次第であるから被告は原告を勤務成績乃至勤務状況甚だ不良にして、学校の給食作業員として適当でないと認め、原告を前記規定に基づき解職処分にしたものであると述べた。(立証省略)

理由

一、原告が昭和二十二年一月以来東京都中野区立中野本郷小学校に給食作業員として勤務してきたこと、ところが被告は昭和二十五年五月三十一日付で原告を東京都傭員規程第十四条第一項第九号に基づき解職処分に付し、その頃原告に通告を行つたこと、右解職の理由が原告主張のとおりであることはいずれも当事者間に争いがない。

二、よつて、被告主張の事実を遂一検討し、本件解職の理由の当否について考える。

(一) まず、原告が昭和二十五年四月十日から同月十五日まで欠勤したことは当事者間に争いがない。そして証人三淵軍治、同保坂昇市の各証言によると、右は原告が給食作業の困難なことを学校側に認識させようとしてことさら欠勤したものである旨、原告みづから右期間中出校して学校職員に公言し、又職員組合から調査を受けた際にもこれを自認していることが認められる。従つて、他に特段の事情がないかぎり、原告は眞実右のような意図をもつて故意に欠勤したものと認める外はない。そして右三淵の証言によると、原告欠勤中学校側は職員をして補助員三名を使い臨時に給食作業に当らしめようやく急場を凌いだことが認められる。原告は、右欠勤は墓参等の必要のため、あらかじめ学校長等の許可を受けたものであり、欠勤中も出校して作業に支障のないよう配慮したというが、原告の欠勤が真実右のような意図に基づくものである以上、たとい原告主張のような事実があつたとしても、これによつて原告の行為が正当となるものではない。

(二) 次に証人三淵軍治、同芳賀左一、の各証言及び弁論の全趣旨を綜合すると、原告は学校の給食作業員であるので、仕事の性質上普通以上に清潔を重んじなければならないことは、平素学校長等からもしばしば注意があつたのであるが、原告は往々非衛生的で且つ風紀上も他人のひんしゆくを買うような所為が多く、殊に最近には食器を洗うボールで下帯を洗い、野菜を洗う樽で湯浴みをしたことさえあつたこと、しかもこのようなことに給食主任その他の職員が注意を与えても、一向に耳を藉さず、かえつて威丈高に振舞い、児童の手前をも構わず悪口暴言を吐くごとき言動もあつたことが認められ、なお日頃現場においてむやみに大声を発して傍若無人に振舞いそのため最近雇入れられた作業補助員三名も、原告の下で働くのを忌避するに至り又一時交替で給食手伝に来ていたP・T・Aの主婦達も、原告が些少のことで叱言をいい、教職員の悪口をいうことなどから、居たたまれないとて極端に手伝をきらうようになつたことがうかがわれる。

原告は、作業上衛生の点には特に留意し、作業状態につき他から賞讚こそされ、非難を受けるような事実は更にない旨主張し、成立に争いのない甲第七、八号証(いずれも前校長芳賀左一が中野区長に宛てた原告の増俸具申書)によると原告はかねてから作業上責任感強く、清潔を特に重んじ、模範的な作業振りを示したかのようであるが、これを証人芳賀左一の証言に徴すると、右は単に同人がその立場上原告を慰撫激励するため、当面の必要に応じ、甚しく事実を誇張して記載したもので、必ずしも真実を伝えるものではないことがうかがわれ、その他同証言証人大久保美津、同熊田寿美子、同皆川種子の各証言、原告本人の訊問の結果等原告の提出援用する全証拠によつても、原告主張の事実を認めて前記認定を左右することはできない。

(三) 次に原告が甲第一号証の一、二、四のビラを児童の父兄に配付した事実は争いがない。しかして成立に争いのない右甲号証によれば、右のビラ、なかんずく甲第一号証の一中、学校保管物の処分代金の使途に関する記載が事実に相違していたことは、原告がこれを同号証の二をもつて訂正していることからも容易にうかがえるところであり、これら三個のビラの記載を精細に検討し、あわせて証人三淵軍治の証言及び弁論の全趣旨を綜合すると、原告はかようなビラを配付することによつて、少くとも、学校経営の方針に対し、ことさら非協力の態度を表明したものと認める外はない。原告は右は全くP・T・Aの会員の立場から、児童教育の現状を憂うるのあまり学校長等の反省を促したものにすぎないというが、それが、かような純粋な動機、立場の埓内にのみ止まるものでないことは、右に認定したところから自明である。

更にこれを他面から考えると、原告が給食作業員でありながら、(たとえP・T・Aの会員としてでも、)ビラ配布等の方法により学校側の処置を批判することの是非はしばらくおき、右のように直ちに訂正を余儀なくされるごとき内容を記載したビラを配付したことは、少くとも軽卒のそしりを免れず、この点謙虚に反省し、責任を感じなければならないところである。しかるに、原告は、学校側が出した甲第一号証の三の釈明文に対するものではあるが、更に前期のごとく同号証の四のビラを配付しおり、同ビラの記載と弁論の全趣旨とに徴すると、原告は依然自己本位に偏した考え方に拠り執拗といえるまでに学校側の処置を非難していることが認められる。かようなことはいたずらに抗争を事とし、事端をしげくする態度と評さざるをえたい。

三、以上るる認定、説示したところによれば、原告が「衛生観念に欠除し給食作業員として不適当であるのみならず、学校経営に協力せず児童の教育上支障がある。」との認定を東京都傭員規程第十四条第一項第九号にいわゆる「傭員たるに適」しない場合に該当するものとして解職処分を受けるに至つたことは、まことにやむをえないところといわなければならない。

なお、原告は本件解職処分は労働基準法第二十条に違反する旨主張するけれども、被告が原告を解職するに当り、同法所定の予告手当として金九千六百二十円を原告に提供したが受領がないため、程なくこれを供託し今日に至つていることは、原本の存在並びにその成立を認めうる甲第二号証によつて明らかであるから、右解職が予告を欠いたとの理由で、その効力が生じなかつたものとなすことはできず、殊に本件の場合を特段に扱うべき根拠も見当らないから、原告の右主張はその理由がなく、採用できない。

しからば原告はその主張の事由に基づき、本件解職処分を違法とし、その取消を求めることはできないものといわなければならない。

よつて、原告の本訴請求を理由なしとして棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(東京地方民事第十部乙――裁判官 脇屋寿夫、三和田大士、緒方節郎)

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